マイクロスケール実験の部屋

1)マイクロスケール実験とは

  研究室では数年前から「マイクロスケール実験」に積極的に取り組んでいます。
マイクロスケール実験は,実験のスケールを従来に比して1/5から1/10に小さくして,
使う薬品をできるだけ少なくする方法です。
 環境に配慮するグリーンケミストリー(注)の考えに基づく実験で,教育現場に普及
させるための教材開発と教育実践を行っています。
 また,学部の卒論,大学院の修論のテーマとしてすでに取り上げています。
附属学校だけでなく,卒業生の協力も得て教育現場での教育実践に力をいれています。
「環境にやさしい」化学実験に興味のある人には是非とも取り組んでほしいテーマです。

(注)グリーンケミストリー(Green Chemistry)とは
  「物質を設計し,合成し応用するときに有害物質
   をなるべく使わない,出さない化学」
  「人体と環境にたいする影響を常に考えた化学」
であり,環境問題を配慮した化学(環境にやさしい化学)とも言えます。
 また,最近はSustainable Chemistry (サステイナブルケミストリー)
すなわち,「社会の発展が持続可能な化学」の考え方も反映させ,
GSC(グリーン・サステイナブルケミストリー)とも呼ばれています。
このGSCの考えを,化学教育実験に反映させる事を研究の目的としています。

尚,「マイクロスケール実験」は中学校学習指導要領解説(p.120)でも紹介されています。
 

    2)化学教育,特に化学教育実験のこれからのあり方について

      21世紀の化学教育,特に化学教育実験のあり方について考えてみました。

     (1)環境問題を意識した化学教育実験を実施する。
      →実験で使用する薬品量をできるだけ少なくする
      →実験後の廃液量を減らす

     (2)実験時間の短縮と準備作業の軽減によりできるだけ多くの
      種類の生徒実験を可能にする。
      (高校化学で扱われる化学実験の内容は,座学で終始する場合が多い。
      あるいは,教卓実験(演示実験)による説明で済ませる場合が多い)

     (3)生徒がひとりで実施できる実験を設定し,
      責任感と問題解決能力を育てる。

     (4)生徒自らが実験をデザインできるような発展的内容をもたせる
      演示実験→生徒実験(グループ実験→1ないし2人による個人実験)
      の機会を多くもつ。
       実験マニュアルに沿った実験だけでなく,生徒自身による
      工夫の可能性を残す。

     (5)自然法則,原理がどのような過程から導かれたかを学ぶには,
      また化学の学習で最も重要な物質概念を定着させるには,
      実験による経験が必要だと考えています。
       この物質概念は,小中高校時代に身につける必要があります。
 

   3) マイクロスケール化学実験の特徴
     
        以上の観点から「マイクロスケール化学実験」の導入が最適だと考えています。

     次に,マイクロスケール化学実験の特徴についてまとめました。
    
     1)試薬と経費の節減(省資源,省エネルギー)

     2)実験廃棄物の少量化

     3)試薬が少量で危険が少なく,事故防止に役立つ

     4)実験時間の短縮

     5)個人実験が可能で,達成感が得られる。

     6)理科実験室でなく,通常の教室でも実施が可能
 

   4)マイクロスケール化学実験の現状
 
      中国,タイ,メキシコ,米国においては中学校,高校の授業で
     マイクロスケール化学実験が行われています。

    例:中国の場合
    *上海地区の例では,約1000校の中学校で
      マイクロスケール実験が採用されている。
    *中学卒業の認定試験における化学実験は
      マイクロスケール実験で行われている。
    *中学3年間の理科教科書3冊に加えて,3冊の実験書
     が使われている。数多くの生徒に化学実験を体験させ
     るためにマイクロスケール実験が採用されている。

    例:米国
    *いくつかの州では,中学,高校レベルの化学実験はマイクロスケール
     (スモールスケール)で行うことが義務づけられている。

     一方,日本の学校現場においては,ほとんどマイクロスケール実験は普及
     していません。
       例えば,荻野先生らのグループにより仙台地区の高校での先進的な実施例が
       報告されています。
     大学では,東北大学の1年生対象の基礎的な自然科学実験,東大の教養での化学実験,
    放送大学の面接授業での化学実験(宮城地区)等の実施例が報告されています。

     研究室では,京都府内のいくつかの高校でマイクロスケール実験を「出張授業」
   で行ったり, あるいは担当の先生による通常の授業での実施をサポートしています。
     実施した近隣の高校として附属高校,桃山高校,洛北高校,園部高校,久美浜高校,
    宮津高校,山城高校、塔南高校などがあります。

    また,中学校では,附属京都中学校,附属桃山中学校,桃映中学校,大山崎中学校,
   北大路中学校などで実施しています。
   小学校では稲荷小学校,相楽台小学校、竹田小学校、附属桃山小学校で行いました.
   
 教育委員会主催による教員研修会でも多く紹介しております.

 
   5)研究室で試作,授業実践を実施したマイクロスケール実験の例

    研究室のメンバーと協力して行いました。研究生川本公二先生,大学院生坂東 舞さん
  ら研究室のメンバーによる精力的な活動により得られた成果です。今までの実施例を紹介します。

    (1)金属陽イオンの定性分析
                       実験プリント
        (2)紫キャベツの色素とpH変化
    (3)ダニエル電池と鉛蓄電池(電気分解も含む)
    (4)水の電気分解と爆鳴気(*)
    (5)燃料電池(*)
    (6)塩化銅水溶液の電気分解(*) 資料
    (7)化学反応の早さ(反応速度)
    (8)金属樹の成長
    (9)混合物の分離(ろ過、抽出、ペーパークロマトグラフイー)
    (10)気体の発生と性質(*)
    (11)イオンの移動(*)

       (*)は中学校理科,他は高校化学の内容です。

      いくつかについては,実施方法,授業用配布プリントを含む資料は,準備されていますので,
     興味のある方は,ご連絡ください。教育現場での普及に協力いただければ幸いです。
      (連絡先:shiba@kyokyo-u.ac.jp)

   6)参考文献
      教材実験を試作する際に参考にした文献等,最近の研究成果を示します。

      1)マイクロスケール化学実験−マイクロスケール実験の広場から−
          荻野和子編,マイクロスケール実験ワーキンググループメンバー
          日本化学会,45pp. (2003)
        (マイクロスケール実験の多くの実験例,諸外国の状況
         等が紹介されている)
                  (尚,日本化学会発行の「化学と教育」には「マイクロスケール実験の広場」
         が連載されている)

             2)荻野和子,「マイクロスケール滴定用ビュレットの改良」
          化学と教育,53巻5号,286 (2005)

             3)井上正之,「ベンゼンのマイクロスケールニトロ化」
          化学と教育,53巻6号,339 (2005)

            4)小俣幹二,甲 國信 「東北大学全学教育理科実験へのマイクロスケール
          有機化学実験の導入」
          化学と教育,53巻11号,614 (2005)

        5)萩原克之,中川徹夫 「高等学校理科総合Aにおけるマイクロスケール実験」         
          化学と教育,53巻12号,689 (2005)

            6)N.H.Zhou, Microscale Inorganic Chemistry, Science Press, 2000
   
             7)マイクロスケール有機化学実験, ウイリアムソン,後藤俊夫他訳
          丸善,510pp,1990

      8)Microscale Organic Chemistry, D,W,Mayo, R.M.Pike and P.K. Trumper
                       4th edition, Wiley, 668pp. 1999

              9)Chemistry-Small Scale Experiments for General Chemistry-, S. Thompson,
                      PRENTICE HALL, 525pp. 1989

      10) マイクロスケール実験による水の電気分解実験の定量化
           坂東 舞,川本公二,土田弘幸,芝原寛泰
          京都教育大学教育実践研究紀要 第6号,p25-34 (2006)

             11)小容量セルによる金属イオン反応実験の教材化
          −環境問題を意識した廃液の少量化と資源の有効利用を目指して−
           山口幸雄,芝原寛泰,山根良行
          フォーラム理科教育,第4号,p19-27 (2002)

      12)小学校理科「ホウ酸・ミョウバン・食塩の水に対する溶解性」
           中川徹夫・田野崎歩美・須藤紫野・吉國忠亜
          理科の教育,55号,58-61,2006
 

      

  7)リンク集
     マイクロスケール実験が紹介されているサイトです。
        海外
       http://www.microscale.org/
       http://www.micrecol.de/MCfamily.html
       http://micrecol.de/linz.html
       http://micrecol.de/zhouninghuairev.html
       http://www.p2000.umich.edu/chemical_waste/cw7.htm
 

        科研費(特定研究H15,17年)による研究
       http://risuka.ei.tohoku.ac.jp/rsroot/itiran2/g206.htm
       http://risuka.ei.tohoku.ac.jp/rsroot/itiran3/u005.htm

        雑誌 書籍等
       http://chem.sci.utsunomiya-u.ac.jp/~cej/v7n2/
       http://www.chemsoc.org/networks/learnnet/microscale.htm
 

        企業
       http://www.sargentwelch.com/category.asp_Q_c_E_26245_A_Microscale+Chemistry_E_
       http://wardsci.com/category.asp_Q_c_E_1436_A_Microchemistry
 

       教育委員会など
    (京都府)
    http://www.kyoto-be.ne.jp/n-center/rika-tyuri/kagaku/mizu-bunkai-mini/mizu-bunkai-mini.html
    (茨城県)
       http://www.center.ibk.ed.jp/zyouhou/sozai_db/jun_rika/5/micro.htm
    (北海道)
       http://www.ricen.hokkaido-c.ed.jp/410kiyou/vol16/33niside.htm
 

    研究会のHPで,多くの情報が掲載されています。
    http://science.icu.ac.jp/MCE/
 

  8)マイクロスケール実験に関する活動
 

    9)京都マイクロスケール実験研究会の案内